2012年9月30日日曜日

アーカンソー州バッファロー・ナショナル・リバーへの旅6/乗馬!



 短過ぎたカヌーにがっかりした夫が、「これを埋め合わせるのに出来る事」としてあげたのが、「乗馬!」だ。夫は幼い時、テネシー州にある親戚の農場に、毎年夏訪れており、乗馬の経験がかなりあるという。私はと言えば、夫が期待していた程長くなかったとは言え、2時間半カヌーを漕ぎ続けて、腕が結構痛かった。しかし、せっかくここまでやって来たのだから、夫がやりたいことをやらせてあげるのが、立派な妻!と思い、乗馬行きに同意した。

 夫はパークレンジャー事務所で貰ったパンフレットにある番号に電話をかけた。最初、「3時間コース」に参加する予定だったが、キャビンで昼寝をしている間に時間が無くなって、「2時間コース」に変更した。電話に出た女性に道順を聞き、車に乗って出かけたが、またまた、行けども行けども、目標とする場所が出てこない。私達はキャビンから15分くらいと考えていたのだが、かれこれ、45分くらい走っている。「道を間違えたのに違いない!」と思い、引き返して、とある店に夫が入り店主に聞いてみると、「さっきまで走っていた道をもっと走っていったら、きっと見えるはず」と言われたそうだ。
「アーカンソー州の旅で『次の角を曲がったらある』と言われたら、その角から何マイルか聞け!」
今回の教訓である。

 その店の店主の言う通り、その「Trading Post」は、そのずーっと先にあった。結局、「市」を3つほど(4つかも、5つかも)越したと思う。その間に、これと言ったものが無いのも恐ろしい。この地方をドライブしていて、看板があり、「お店かしら?」と思うと、それは必ず教会だった。村に、「教会」しかないのだ。ラジオから流れてくる曲は、カントリーミュージックのみ。ラジオから聞いた曲の中に、「金曜日は~をし、(~の部分は忘れた)、土曜日は~をし、日曜日に教会に行く。こうして私はジーザス(キリストのこと)について学んだ!」という歌があった。は~、そうか。この山間に住んでいる人達は、そんな生活しかないのか。実際、二百年前の生活と、大して変わらないように見えた。(というのは、ショック状態にあった私の歪んだ眼差しを通してであるが...)




 「あそこに看板がある!」本当に猛スピードで駐車場に到着した。そこには、既に馬に乗った人が二人おり、私達を待っていた。私達は40分以上遅れたのに、そんなに長い間、待っていたのか?大変申し訳ないと思った。店内で訳もわからないままサインをし、馬に乗る。馬に乗る時には、横に階段付きの台があり、それから馬に跨る。足を所定の位置に載せ、手綱を握り締めると、スタッフが、「右に行きたい時は、ちょいと右に引っ張り、左に行きたい時は左にちょいと引っ張り、止まりたい時は後ろに引く」と言う。それですぐに出発だ。「え、説明は、これだけ?」そのようである。心の準備もままならないまま、私の馬は歩き出した。




 人生の中でそれまで一度も乗馬をしたことが無いのに、私は突然2時間コースのトレイルを馬に乗って始めたのだ。いきなり、車道を越えなければならない。何をすれば良いのか、全くわからなかった。後ろにいる夫に、「馬がわかってるよね?」(お願いだ、わかっていると言ってくれ!)と聞いたら、「大丈夫。わかってるよ」と言う。しかしだ。車道と森の間にある細い空間を歩いていた私の馬は、前の馬達よりかなりノッタラ、ヘッタラして、かなりの隔たりがあり、挙句の果てには、草を食べ始めた!え~、どうしたらいいのよ~!でも、「お腹が空いてるのかしらね」と、そのまま、草を食べさせてあげた。私達のグループの反対方向から、馬に乗ってやって来た男性が、「手綱を引きすぎているから、馬が『止まれ』と思っているんだよ」と教えてくれた。「へ~、そんなもんですかい」と思った。しかしこの男、普段の生活で、馬に乗って移動しているように見えた。すごい所に来たもんだ。

 それでも私の黒馬ハリエットは言う事を聞いてくれず、(と言っても、何を言ったら良いのかわからず、私から発したメッセージは無いのだが)、とうとう先頭にいたガイドが私の所に来て、「自分がやるから」といって、ハリエットに綱を引っ掛け、彼がその綱を持ってくれた。これで私はストレス無しに乗馬を楽しむ事ができるようになった。その後は、ハリエットも従順に歩いてくれる。俯いて黙々と歩く馬の背を見て、「まあ、可哀想に。こんな事毎日やってるのね。」と思った。我が家の愛犬ボジョと歩いているような気がした。後にガイドが、「馬には厳しくしないと、なめられちゃうよ」と言ったが、「なめられても良いから、動物愛護家の私には、厳しくできません!」と思った。

 ガイドはたまに振り返って、話しをしていたが、彼の話す英語を、私は殆ど理解できなかった。彼はアーカンソー出身ではなく、オクラホマ出身と言う事だ。それまでカウボーイとして人生を生きてきたのだろう。途中でタバコを吸いだし、唾をぺっと履きだす。この辺は随分カウボーイだと思った。多分彼は、都会のオフィスでは働けないだろう。しかし、こうやって馬に乗っていれば、大会社の社長よりずっと実用的で頼りになる「なくてはならない人」で、今の私の命は、この人にかかっているのだ!

 ガイドは、「馬は走るための靴を履いていないから、走らせないように」と言ったが、もちろん、私がそんなことをするわけがない。ただただ、黙々と馬の背に揺られ、コースが無事終了することを願った。3時間コースでなくて良かったと思った。馬に乗るのは、随分痛いのだ。こんな事を一日に何時間も毎日している人がいる事が信じられなかった。森の中を降りている時は特に痛く、馬の長くて細い足が、私を載せて大丈夫なのかと心配した。それでも馬は、何とか森を通り抜け、また車道を超え、今度は反対側の森の中に入っていった。そこは結構大きな道になっており、最初のコースより楽だった。以前、馬車に乗った人々を襲う悪い奴等が出てくる映画を見たことがあったが、そんな感じだった。夫が「ここに、熊はいるのか?」とガイドに聞いたら、ガイドは「居る」という。少々引いている夫に、「でも、熊はちゃんと自分の行動範囲を知っていて、人間に出くわす事は滅多にない」と言った。

 折り返し地点に来て、また元の道を引き返した。途中で細い所があり、私の左膝が木に当たった。超痛かった!馬は自分が通れれば良いと思っているようで、私の足のことなどお構いなしだ。なので、自分で木を避けなければならない。その後からは足を動かして、木にぶつからないようにした。


 
 やっと出発点に戻り、トレイル終了である。最初に使った台に乗った時、しばらく動けなかった。打った膝が痛く、歩けるか心配だった程だ。それでもしばらくしたら回復し、敷地内を少々歩き回った。なんと不覚な事に、カメラを入口に置き忘れ、馬に乗っている間は写真が取れなかったのだ。それで、馬達の写真をやっと取り出した。




 ガイドに頼んで、私達の写真を撮ってもらった。写真を撮ることに慣れていないのは明らかで、シャッターを切る時に手が揺れているのがわかったが、それでも、なんとか一枚取れている。私は彼から、随分いろんなことを学んだ気がした。アメリカ開拓時代の人々を見たといったら失礼かもしれないが、その時代から抜き出てきたような人だった。ふと彼が撮った写真を見ると、「南部旗」が掲げられているではないか。南部に居るのだ。

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