2012年5月18日金曜日

母の日のピクニック



 「母の日」は、どうやらアメリカで始まったらしい。

 毎年、あまり母の日のお祝いを正式にしていない事に、少々罪悪感を感じていた私は、夫に、「母の日どうする?」と相談した。いつも忙しい夫なので、全日を使うのは無理だと思っていたが、意外な事に、「食事でもするか」と言ってくれた。彼としては軽く何か買って来て、自宅で映画でも見るくらいに考えていたらしいのだが、彼の言葉に感化された私は、張り切ってプランを立て始めた。まず初めに、先日見たウォールマートのピクニックセットを購入し、家の裏庭か公園でピクニックをしようと、夢が膨らむ。夫が母の日プランにゴーサインを出したのが、既に木曜日だったので、慌てて翌日の金曜日、夕食後に一人でウォールマートに向かった。

 ウォールマートの一画に、カラフルなピクニック用のプラスティック製食器が並べられている。前回ウォールマートに行った時、あまりにも可愛いので、ツツーッと引き寄せられたコーナーだ。その時は時間が無かったので、「次回はぜひ」と思っていたのだが、今回早々と夢が叶い、嬉しい限りである。そこで緑色の皿、スープカップ、ブルーのコップ等を、かなりの時間を費やして選んだ。

 そして、メニュー選びも大切である。ウェッブサイトで調べると、母の日のメニューには、軽い食事が多いように見える。朝食やブランチをするのが母の日の典型例らしいので、卵料理等、軽い料理が多い。しかし夫の姉はこの日仕事をしなければならなかったので、ブランチをするわけにはいかない。プランを立て始めた日の夜、予約録画してあった「フレンチ・フード・アット・ホーム」という料理番組の中に、「スタッフド・チキン・ロール」があった。作り方はそれほど難しくもなく、なんだかお洒落に見える。「よし、これでいこう」と思った。これなら軽めで、母の日にはもってこいだ。

 私のメモ書きに書かれたその他のメニューは、「サラダ」「ブリュシュケッタ」「スープ」「キッシュ」「ケーキ」だ。これらのメニューを頭に入れ、土曜日にダウンタウンにある「シティーマーケット」に行った。シティーマーケットは、要するに「ファーマーズマーケット」で、新鮮な野菜が破格値で買える。ここで大量に野菜を購入しようと思っていたのだが、この日はあまり、ぱっとしたものが無かった。ファーマーズマーケットは、その日によって値段も違うし、売っている野菜や果物の種類も違う。それでも、トマト、キュウリ、マッシュルーム、レタス、オレンジ、ネギを購入した。普通のスーパーにも寄って、その他に必要な物を買い、家路に向かった。


 土曜日の夜から料理を始め、日曜日の当日、夫の母、姉、姉の二人の娘達がやってくるまで、それは戦争のようだった。そんなに頑張る必要は毛頭無いのだが、やはり我が家でピクニックをするとなると、気が抜けないのである。ブリュシュケッタのトマトは、ガーリックを多めに入れすぎたせいか、夫があまり好まなかった為、採用せず、スーパーで買ったバゲットを切ってそのまま出す事にした。以前、夫の会社の「クラムチャウダー」に、ジャガイモとコーンを加えたら美味しかったので、同じものを作ろうと思い、大量にジャガイモとコーンを加えたら、その缶詰は「チャンキー・タイプ」で、缶詰の中に既に沢山の具が入っており、スープというより、ポテトサラダという感じになってしまった。キッシュのレシピには、「ハーフ・アンド・ハーフ2カップ」とあったので、最初はレシピ通りにしていたのだが、あんまりにも液体が多過ぎるように思い、卵2個をさらに追加した。しかし、オーブンから焼き上がったキッシュを見ると、どうも固そうに見える。この時点で、卵を追加した事を後悔した。やはりプロの言う通り、レシピに倣って作る方が無難だ。ケーキは、スーパーから「レッド・ヴェルヴェット」というケーキミックスを購入してあった。今回、初めて円形のケーキを半分に切り、中にクリームチーズを塗る技を習得したが、ケーキミックスの箱にある写真とは、どうも違うように見える。「私はプロのケーキ職人じゃないからね」と夫に言い訳をしたが、夫は「美味しそうに見えるよ」と慰めてくれた。

 こうして、自分としては100パーセント成功とは言いがたい出来栄えだったのだが、姉の娘は、「これ全部自分で作ったの?」とビックリしていた。アメリカ人の特徴として、人のした事を「褒める」というのがある。あんまり出来は良くなくても、「まあ、とても美味しいわ」と褒めるのである。こういう時、正直な感想は不要で(というか失礼で)、何事も前向きに捉えるのが、アメリカ人のエチケットである。なので、本当の感想はなかなか聞けないのだが、最初の印象は、それ程悪くなかった。

 我が家の裏庭の片隅に、夫が数年前作ったピクニックテーブルがあった。それは二階のポーチから続く外階段の横にあったのだが、そこでは窮屈過ぎるので、今回、芝生の上に出す事にした。これは力仕事で、隣の住人を呼んでこなければならないかと思っていたが、私と夫と姉と娘の四人で持ち上げたら、思ったより簡単に移動できた。そのピクニックテーブルを、夫が箒で掃いてくれ、その上にテーブルクロスをかけた。我が家で初めての本格的ピクニックで、嬉しかった。


 さていよいよ、家の中で食事を皿に盛りつけ、各自が自分の皿を持って、裏庭に繰り出した。次回はもう一つテーブルを用意して、食事全てを外に出せるようにしようと思った。それには、食事をカバーする卓上蚊帳が必要だ。そういうのを、店で見た事がある。ぜひ、購入しよう。そうしたら、もっと気軽にピクニックが楽しめる。



 天気は暑くもなく、寒くもなく、とても澄んだ空気の中、芝生の緑が美しかった。家の裏庭が、こんなに美しく見えた事は無かった。外で食事をすると、どんなものも美味しく感じる。犬のボジョがテーブルの周りをうろちょろし、チキンやベーコンを得ようと、執拗に迫ってくる。彼のコレステロール値は、この日急激に上昇したに違いない。


 最後に、ピクニックテーブルに出したケーキをカットした。ケーキは、昔母にもらった丸いガラスのケーキサーバーに入れた。今回、ケーキを丸くしたのも、このケースに入れたかったからだ。母は「自分で作ったの?」と驚いていたが、箱に入ったケーキミックスがあれば、こういうのは簡単に出来る。私がこのケーキを家の中から運んでいる時、一番下の姪が「運ぶの手伝うわ」と申し出たのには、驚いた。つい最近まで本当に幼い子供だと思っていたのだが、こうして手伝いを申し出るとは、子供の成長の早さに驚いたのだ。原石がダイアモンドになるような変化を見た。

 食事終了後、全てを家の中に運び入れ、リビングルームで母が持参したビデオを見た。それは物理のドキュメンタリーで、興味深いが皆で笑ってみる内容では無かった。疲れていた私は、非常に眠くなったのだが、夫は母達が帰った後、全話を見たらしい。私はその間、100パーセント眠り続け、夫がビデオ鑑賞終了後、目が覚めたら午前二時近かった。全く目が覚めなかった自分に驚いた。よっぽど疲れていたらしい。とにかく、母の日は無事終了した。

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