2011年4月21日木曜日
ミズーリ州ブランソンで、キャンプ
(この日は、遅くに到着し、翌日も早く出発したので、キャンプ場の写真を撮るのを、忘れてしまいました。)
ブランソンに近づくと、だんだん薄暗くなってきたが、周りの風景の美しさに、圧倒される。ブランソンは、「オザーク高地」で「鱒釣り」を楽しむ人達を対象にしたエンターテーメントで発展した町だ。ガイドブックで見つけたキャンプ場に向かう私達の車は、新緑が美しい山の中を走っていた。平坦なカンザスシティーでは見られない光景だ。車窓の外には、新しい息吹を放つ木々が群れを成し、延々と広がっている。山を上から見るのは、ずいぶん久しぶりで感動した。
カーナビを酷使しキャンプ場に到着した頃には、とっぷり日も暮れ、受付事務所は閉まっていた。それでも車を降り、事務所付近をウロウロしていると、男性が声をかけてきた。どうやら、このキャンプ場で働いているらしい。「今到着したばかりで、このキャンプ場に泊まりたい」と言うと、「どうぞ、152番をお使いください」と言う。夫婦で働いているのか、彼の背後に犬を連れた女性がいた。その女性は、「152番は他の敷地より広くて、見晴らしの良い所にあります。今は繁忙期ではないので、一番安い場所と同じ値段で結構です」と言う。こういう風に言われると、VIP扱いをされ、ずいぶん得した気分になる。その事務所の後ろにトイレがあり、シャワーもそこにあるらしい。このCompton Ridge Campground (http://www.comptonridge.com/)は、キャンプ場としては、ずいぶんハイクラスで、トイレ、シャワーはもちろん、屋内プール、ゲームセンター、売店、ビデオレンタル、レクリエーションセンターまである。キャンプではなく、ロッジに泊まる事もできるので、キャンプ初級者には打ってつけの場所だ。しかし私達は暗くなってから到着したので、ハイキング等に行く時間も無く、結局、ほとんどの施設を利用する事無く、後にするのだが。
とりあえず指定された152番に行ってみると、少し下に突き出た場所に位置した。車を止めるのには、少々厄介な場所だ。しかし一旦駐車すれば、そこだけプライベートな空間で、他の車は見えない。私はその個室感覚が気に入った。私達のスペース用に、ピクニックテーブル、電気、水道があった。これなら2、3泊くらい出来そうだと思った。しかし夫のトラックのライトを消すと、何も見えないくらい暗い。キャンプ場には街灯が無いんだと、キャンプ初心者の私は思った。カンザスシティーから持参した虫除け用のろうそく(蚊取り線香のような役割を果たす)に火をつけると、目潰しにあったような眩しさを感じた。暗がりに慣れた私の目は、ろうそくの火を直視できない。本来、夜とは暗いものなのだと思った。「この火で、マシュマロ焼いて、グラハムクラッカーサンド作ろうか」と言ったら、「これは虫除け用のろうそくだから、そんな物を食べたら病気になる」と夫に言われた。アメリカ人は、キャンプの時に、串に刺したマシュマロをキャンプファイヤーの火で焼き、溶けたものをグラハムクラッカーに挟んで食べるらしい。
トラック後部に詰め込んだ持参品を、ピクニックテーブルに運び出す。今回キャンプに費やす時間は、それほど無かったのだが、キャンプに必要な物は一通り持ってきた。しかし、普段使っていない鍋やフライパンをキッチンで洗ったまま、持ってこなかった事に気付く。これではせっかくバスプロで買った、キャンプ料理用のビュータン缶も無駄になるという物だ。ギフトカードのおかげで、ただで手に入っただけ良かったが。
キャンプ場の夜は、予想以上に静かだった。ひんやり気持ちの良い澄んだ空気に包まれ、静寂が津々と降ってくる。こういう所にいると、アメリカでなぜ、カントリーミュージックが生まれたのか、分かる気がした。電気の無い西部開拓時代、こんな静かな暗い夜を過ごすには、携帯便利なバイオリンを陽気に響かせ、キャンプファイヤーの周りで踊る以外、何が出来るかという話しだ。西部開拓者達は、究極のキャンプ上級者だったに違いない。こうして実際に自分自身がそういう場に身を置き、道無き道を進んだアメリカのフロンティア達に、敬意の念を抱いた。
夫は、ブランソンの町を見学したいと言い出す。私は少々疲れていたが、この真っ暗な、本も読めずテレビも無い場所で、特に何かが出来るわけでもなく、一緒についていく事にした。キャンプ場の途中、明かりの点いたキャンピングカーがあった。アメリカでキャンピングカーは、「RV」と呼ばれる。「レクリエーション・ビエクル」の略で、ビエクルとは車という意味だ。RVの中は、意外と快適である。大型の観光バスのようなRVになると、アパート一つ移動させているような物で、ベッドはもちろん、冷蔵庫、洗濯機、トイレ、シャワー、テレビ等、何でも揃っており、お値段も家一軒買うくらいの覚悟が必要だ。そこまで豪華ではないが、中で立って歩き回れ、きっとキッチンもテレビもあるであろうRVは、私達のトラックより、遥かに快適そうで、「家」という感じがした。
ブランソンの町は、基本的に三つの地域に分けられると思う。一つ目はもちろん主役の「劇場地区」。そこには至る所にカントリーミュージック、エルビス・プレスリー等の有名人の物まね、アクロバット等のショーが繰り広げられる劇場と、それに行く観客が泊まるホテルでひしめいている。その中で一番人気なのが、なんと「ショージ・タブチ」という日本人ミュージシャンのショーだ。日本で生まれ育ったタブチさんが、アメリカで大成功を収めているというのは、やはり日本人として大変嬉しい。ブランソンの花形看板男だそうだ。夫は10年程前ブランソンに住んでおり、その時タブチさんのショーを見ているが、とても素晴らしいショーだったらしい。その他に有名なのが、ドリー・パートン所有の「デキシー・スタンピード」。デキシーとは「アメリカ南部諸州」という意味で、「スタンピード」とは「野獣、家畜の群れが驚いてどっと逃げ出す事」と、辞書にはある。その名の如く、ビデオを見る限り、牛や馬等いろんな動物が走り回り、ショーをするらしい。このショーのチケットは高いが、ディナー付きなので、南部の典型的な食事を経験したい方には、良いかもしれない。その他にも大御所アンディー・ウィリアムの劇場もある。
二つ目の地区は「歴史地区」で、ブランソン最初の開拓地だ。可愛い小さなお店がずらりと並んでいる。ここを歩いているだけでも楽しいに違いない。私達は今回、歴史地区を歩く時間は無かったが、次回ブランソンを訪れる機会があれば、ぜひ行きたいと思う。
最後の地区は、夫を最も驚かせた「埠頭地区」。湖の側にヒルトンホテルが堂々と建設され、その横に最新の高級ショッピングセンターがあるのだ。夫が住んでいた時代、そこには何も無く、彼の言葉を引用すると「顎が落ちるくらい」ビックリしていた。そこの駐車場に車を停め、しばらく歩く事にする。屋外ショッピングセンターの端には、ライトアップされた噴水があった。その前の階段を登ると、アメリカ全国規模のブティックや宝石店、レストラン、台所用品店等がずらりと並んでいる。一階が商店街で、二階はコンドになっているように見えた。ヒルトンホテルの別棟かもしれない。船着き場の近くに、インターネットで見つけた「フィッシュハウス」というレストランがあった。後で気付いた事だが、このレストランはバスプロ系なので、後に貰うギフトカードで食事できるはずだ。ほとんどの店は閉店後だったが、レストランやバーが数件、まだ営業中だった。その間にある歩行者天国の道を、夫と二人でのんびり歩いた。一通り全ての店を見学した後で、車に戻り、途中ガソリンスタンドに立ち寄って、キャンプ場に戻った。
さて、ここからがキャンプ本番である。食べ物や釣り道具(使わなかったが)等は全て、テーブルの周りに出してある。懐中電灯を頼りにトラック内のベッドを整え、寝転がってみる。エアーマットレスというのは、大変移動しにくい代物だ。その上、覆いが被さったトラック後部はとても狭く、立ち上がる事等、到底出来ない。ぐにゅぐにゅ揺れるマットレスの上を何度も寝返りし、最も快適なポジションを探すよう努めた。昼間は暑いくらいだったが、気温の下がった夜の空気は、冷たい。なかなか寝付けず、それに花粉症で十連発くらい、くしゃみをした。「普段はいびきでうるさいのは僕だけど、今日は耳栓が必要だ。振動も加わるし」と夫に言われた。
しかしそれでも、いつの間にか眠りに落ちたようで、気付けば外は既に明るく、鳥やリスの物音で目が覚めた。窓から、まだ葉の付いていない木々が見える。目が覚めた時に、水色の空と木が見えるというのは、何とも贅沢な気分で清々しい。そうか、キャンプの醍醐味とはこういう物なんだなと思った。夫も目が覚めているようだったので、寒い外に出てみる事にした。
トイレに行きたかったので、事務所方面に行く。トイレは、とても清潔だった。公衆トイレといえば、「汚い」イメージがあり、少々そんなトイレを想像していたが、「今、清掃が終わりました!」と思うほど、床も便器もピカピカに清潔で、とても気持ちが良かった。試しにシャワーも見学したが、こちらも清潔である。この後ホテルに行く予定だったので、ホテルでシャワーを浴びようと思っていたが、これならここでシャワーを浴びても良いと思った。(結局しなかったが。)因みに、このキャンプ場は、ワイヤレスのインターネット「Wi Fi」が使用できる。
夫が待っている事務所に向かう。事務所の中には売店もあり、そこでキャンプに必要な物は、ほとんど揃いそうだった。映画のビデオや本の貸し出しもしているようで、エンターテーメントにも余念が無い。その売店で、コーヒーを購入した。私のオフィスのコーヒーよりも数段、美味しい。前日会った女性が、事務所に居た。会計を済ませた夫は、これから見たいブランソンのショーについて語っていた。その事務所でも、割引付きでショーのチケットが買えるようだった。夫は「デキシー・スタンピード」が見たいと言っていたが、その女性スタッフは、当日のチケットは販売できないと言った。
私達の敷地に戻り、朝食の準備をする。やっとキャンプらしいことができると思った。私達の敷地には、ピクニックテーブルが一つと、端の方に水道の蛇口があり、その上に小さな電気のアウトレットの箱があった。長い延長コードと、小さなランプを持参すれば、夜でも灯りをつけることができると名案が沸き、次回は絶対に持参しようと思った。前日、鍋類を持ってこなかったことに気付いていたので、アメリカ製炊飯器で、ラーメンを作ることにする。ブランソンに来る前に寄ったスーパーで卵を買っており、ラーメンに卵も入れた。作っている途中、夫とピクニックテーブルで話しをしていたので、茹ですぎてしまい、少々伸びたラーメンだったが、夫はおいしいと言って、食べてくれた。彼はコンピューターを取り出し、「どうやら炊飯器では、何でも料理できるらしい」と、Facebookで公表していた。朝食終了後、簡単に掃除し、荷物を全てトラックに詰め込み、ホテルに向けて出発した。
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